生きるのはなぜ苦しいのだろう、つらいのだろう。いや、だからこそ喜びを感じ得るのだ。闇があるから光が分かる。この世はあなたが必要だ。感情回復『詩的ぶるぅすメソッド』申込はメッセージフォームから。
記憶の忘れ物をしている人へ
しらかば通り ただ真っ白に 雪の上に並び かっと差す陽光が 逞しい線を落とす ぽつりぼつりと 小さな足跡 辿ってゆく先に 答えはあるのか それとも一途に 白樺の間をゆくか 時が経って 並木が失われても 運命に迷い 苦悩した少年を それでも歩んだ日を どうか忘れないで きっと...
冬の菜の花 頬も紅らむ朝の駅 初冬に並ぶ菜の花よ 行き交う人のほころび目 嬉しや我も同じもの 圧倒的な未来達 つぶらな瞳でにらめっこ 風なく黄色く揺れる列 遥かな先を想う春
藁焼 わらやきのけむりに満ち きのうより早い夕暮れ 鼻をさす季節の匂い かくれんぼももう終わり わたしは寂しかった 遊ぶ時間が終わるからか 夕闇が迫る恐怖からか 刈り取られた田の風景からか 誰もいなくなる気がしたからか それはいつまでも鼻に残り わらやきに似た匂いがする度 うら寂...
二枚のビスケット わたしの左手には 二枚のビスケットが乗り 乗せたひとはというと なんの屈託もなく なんの腹案もなく ただの真心であった ただの真心! 幾度か復唱してみる ただの真心! ただの真心! 二枚のビスケットは ほどなくわたしの口へ 運ばれていった
岩山に涙なし 掘っても 掘っても 出てくるのは 赤さびた土 ずいぶん昔 樹々に溢れ 瑞々しい色に 満ちていたという 今あるものは 岩山の影のみ 掘っても 掘っても 涙すら出ぬ わたしの心
東京トンボ あきれるほどいた東京トンボ いつの間にやら姿を消した 思い出深い秋の夕暮れ 長い影が幾重に走った 手を大きく振り上げて 次の約束交わす声 陽は溶けて大皿にのり 夕餉の匂いに包まれる 東京トンボよどこに行った 神社の鳥居も色褪せる
工場建設は雨に消ゆ 乾燥剤を撒きました トマトが石ころのようになりました 乾燥剤を撒きました ツバキがぼとぼと落ちました 乾燥剤を撒きました 虹の橋が崩れていきました 乾燥剤を撒きました 目に見えるもの総て土色になりました その土色は赤みのあるものではなくて 灰色に近い冷たい色で...
石焼きいも ぽぉーーー 沁みる夜風に 淋しく懐かしく 境遇というものは 箱車を引かせもする それでも火を焚くのは 懐かしい音がいつも 聞こえてくるからか ぽぉーーー
月影 幼少のころ 屈託のない 笑顔の子が 無数にある 扉を開けて あるいは覗いて 突如雷に 打たれてしまって 太陽に月が 重なったように 美しい顔には 影が差して 暗みがかる ことがままある 太陽を月が よぎるまでは
下町のこうば 色褪せたポスター 水着女が笑う 壁に染みる油 窓ガラスがくもる 下町の小さなこうば 缶コーヒーが錆びる ひとりの技師がいま 機械のスイッチを切った 遠くでカラスが鳴いた 子どもが縄跳びしている 昭和の深呼吸をして 差し込む夕日を踏む 転がる一本のネジを ネコがまたい...
野菊 まっすぐのびる川よりも 曲がりくねった川がいい ひとつ野菊を浮かべても ゆっくり流れてほしいから あなたはただまっすぐに 過ぎて行ってしまったから まっすぐのびる坂よりも 曲がりくねった坂がいい 風に野菊を飛ばしても 転がり落ちていかないから あなたはただまっすぐに 重さに...
大船渡線 大船渡線はゆく 気仙沼まではゆく その先へは行かない 本当は行きたいのに 海さえ見せてくれない 潮の香りだけはくれる まだ知らないことがある 知らされていないことがある だから自転車でゆく 海まで自転車でゆく 船があった 家があった 車が砂埃りをあげた 人が日焼け顔で見...
鹿折川(ししおりがわ) 一階のない家の前 ヒマワリが咲いている 太陽に向いていない 海のほうを向いている 一階もない家の中 小魚が逃げてゆく 取り残された潮溜り 小魚が逃げてゆく 木蔭もない家の街 人間が日に焼ける 海のほうを向きながら 人間は日に焼ける ※2011年8月 被災地...
神輿 えいさ えいさ 神輿が通る そぞり そぞり 犇(ひしめ)く 法被(はっぴ) 月は素知らず 夜空を泳ぎ 地上に流れる 天の川を見る 結い上げ髪の 夏は移ろい 提灯(ちょうちん)の下で 揺れる頬影(ほおかげ)
上野公園 北へ向かう者が 上野山の風に逢い 南へ降りる者が 不忍(しのばず)の花に酔い いくつもの足跡が 道を踏み固め 明日も知れぬ明日を 木の葉は行き交った 西の空の色は 郷愁の中にむせび 東の河の果ては 蜩(ひぐらし)には知る由なく
さし風(かぜ) なまぬるい風を受けても なんとも思わなくなった日 融けた重みで雪が 僕に覆い被さった 這い出るためにもがき 再び息をしたとき笑った 冷たい頬の感触が ひりひりと神経を撫でた 生きている不思議と 生かされた不気味に みるみる雪は消え果て 風が通りすぎていった やわら...
オゾンホールがあきまして オゾンホールがあきまして 近頃あたまがひりひりします この間買った麦わら帽子 わたしが最後の客でした あなたに送ったラブレター イルカがくわえてゆきました 波はどこまでも穏やかに 閉ざした海の家を鳴らします 人にはそれぞれ守るものが ひとつやふたあつある...
海の中の電柱 なんのために そこにいるの 雨に晒され 波にもまれて 時々カモメが 休むばかり 無理矢理ここへ 立たされたんだ きみは嘆いて ふてくされる 電線なんて とっくに切れた もうどこにも 繋がってない ならばカモメよ 渡り鳥よ 心ゆくまで 休むがいい 古い時代の ガス灯の...
氷点下 夕陽を落っことした夜 なんでかね身震いした 息は吐くたびに白く 足先が妙に冷たい お気楽な連中は今頃 ぬくぬくと一杯やってるか うらやむわけではないけれど 窓の明かりが気にならあ 夢を捨てた人間と 夢の影を踏む人間 どちらもきっと美しい 美しい朝がやって来る 見たことがあ...
ていかかずら もう忘れてしまった 駅の印象だとか 商店街の名前だとか もう忘れてしまった 八百屋のおじさんとか ラーメン屋のスープとか もう忘れてしまった 路地裏の黒いネコとか 植木いじりのおじさんとか ていかかずらの匂いが どこからともなく漂うと 忘れてしまった街が そのたびご...